“骨”のあるところに銘酒あり。
自家燻製家 百井和浩が訪ねる銘酒探訪。
骨のあるチーズを、美味く、上手くさばく、銘酒の名主に会いにゆく。
場所は王城の都、京都。
名酒館タキモト : 塩田氏との対談。

Q.タキモトさんと、骨のあるチーズの出会いのきっかけは?

【百井和浩:以下百井】 僕の本業である「ももい接骨院」の患者さんで、全国でも指折りの有名料理人の方がいらっしゃって。その方がタキモトさんをご紹介くださったんです。「西日本でチーズを取り扱ってもらうならココ!タキモトさんに置いてもらえれば本物だ!」とおっしゃって。ご縁をつないでくださいましたね。

【塩田氏:以下塩田】 そうでしたねー!その方が「めっちゃ美味しいスモークチーズがある!」と、見せてくれたんです。食べさせてはくれなかったんですけど(笑)非常に興味が湧きました。正式にご紹介いただいて、サンプルの依頼をしました。時期は2020年の4月。たしか、最初の緊急事態宣言中じゃなかったかな。タフな時期に、骨のある男と出会いました。

Q.実際に骨のあるチーズを食べていかがでしたか?

【塩田】 当社では、1〜2週間に1度のペースで、スタッフを交えてお酒の勉強会をしています。ちょうどサンプルが届いた頃の勉強会のテーマが「日本酒と赤ワイン」だったんですね。骨のあるチーズと合わせてペアリングしてみました。その時に、当社の専務が「このスモークチーズ食べ出したら、なんぼでも呑んでしまうわ!」と、めっちゃ気に入ったんです。スタッフもパクパク食べちゃって。経営陣からも「取引できるなら、ぜひやってみよう」という話になりました。

【百井】 お酒のプロの方から、そこまで評価していただけることは、とても光栄なことです。

【塩田】 ここまで燻製香を入れられるスモークチーズは、なかなかないですよ。プレーンは香りの強さ、胡椒・山椒はオリジナリティがあります。余韻の長さも群を抜いていますね。口のなかに香りがしっかり残っている。それだけで「もう一口」お酒が飲めちゃいます。

【百井】 僕も、骨のあるチーズの特徴を聞かれると「日本一深いスモーク。ディープスモークチーズです。」と、自信をもってお伝えします。骨のある深い味わいになるように研ぎ澄ませていますね。

【塩田】 自宅でも「何が合うかな〜」といろいろ試しました。ピッタリきたのは、フランスの赤でミディアムボディのもの。ヴィンテージではなく、若めのエレガントな赤です。個性的なワインよりも、骨のあるチーズを活かし高め合うものがいいですね。ペアリングには、お酒と食材が「美味しい!」と共鳴し合う瞬間があります。後述しますが、日本酒との相性は驚きでした。そのような巡り合わせに出会えることは、とても素敵なことですよね。

Q.接骨院の先生がつくっていると聞いて驚きました?

【塩田】 まず、骨のあるチーズという名前のインパクトが残りました。接骨院の先生がつくっているチーズと聞いて「なるほど!だから骨なのかと!」と、アイデンティティも強く感じました。変に飾っていなく、無骨な雰囲気もよかったです。味で勝負されているんだなと。あと、僕も職業柄か腰痛持ちでして…。多方向からシンパシーを感じましたね(笑)

【百井】 骨の専門家が、骨のある姿勢でつくることを表現したくて、このネーミングにしました。お酒屋さんで腰痛の方はけっこういらっしゃいますよね。ぜひ、ももい接骨院にも来ていただきたいです。骨のある施術を行いたいと思います。

Q.日本酒とのマリアージュはおすすめですか?

【百井】 そう、日本酒とも合うって本当ですか?とても意外だったのですが。

【塩田】 日本酒との相性は非常にいいので、おすすめしたいです。お、これは!と、驚いたのはフレッシュな「生酒」タイプのもの。フルーティで穏やかな日本酒です。王道の日本酒だと、香りは強くないけど酸はしっかり入っている、いわゆる“キレ”のいいタイプのもの。骨のあるチーズのプレーンはもちろん、胡椒・山椒との相性もいいですね。熟成酒や温度帯を変えた日本酒と合わせても、さらに可能性が広がると思います。

【百井】若干の甘味がありつつ、すっきりした日本酒がよさそうですね。酸というのは酸味のことですか?

【塩田】 いえ、日本酒には「酸度」という数値があって、いわば日本酒の旨味成分のことです。当店のプライスカードに1、1.5、2、2.5…などと記載してあるのですが、数字が大きくなるほど甘味、苦味、渋み、旨味、などの味の構成要素が多いということですね。骨のあるチーズには、1.5〜2の間のものが合うと思います。

【百井】 日本酒は、季節によっても愉しみ方は変わってきますか?

【塩田】 そうですね。例えば、日本酒は冬の時期から「新酒」のシーズンに入っていくんですよ。“あらばしり”、“しぼりたて”と合わせるのは、季節の愉しみ方のひとつですね。もちろん熱燗と合わせても、旨味の強い骨のあるチーズをアテにぐびぐびいけます。夏はキリッと冷やした冷酒が最高です。日本酒というのは、お酒のなかでも温度帯を変えて味わえる稀有な存在なんですよ。0度に近い低温から、熱々の60度くらいまで温度を変えて愉しめるお酒は日本酒くらいしかないと思います。温度によって表情が変わるんですね。まだまだ未知のマリアージュがありそうです。逆に、スモークチーズは季節によって製法を変えたりしますか?

【百井】 変えますね。季節に合わせてチップから調合します。冬より夏のほうが燻製時間が長いんです。外気温が高いため、燻製機の温度を上げることができないんですね。なので、低めの温度でじっくり時間をかけて燻製香を吸収させます。ただ酸味も出やすいため、チップの配合量など微妙なさじ加減で調整します。大手メーカーのスモークチーズは「いつでも同じ味わい」がミッションだと思いますが、骨のあるチーズは「季節ごとに最高な味」を目指して、アプローチします。どこかお酒の世界観と通じるところがあると思いますね。

Q.日本酒が若者から敬遠された時期がありました。現在はどうですか?

【塩田】 当社には若いお客さまが多いんですよ。土日は、20代前半くらいのカップルの方がご来店いただいたり。若い世代の方がお酒の文化に触れてくださるのが嬉しくて、僕も一生懸命接客していますね。で、驚くことに一番人気のあるお酒が、実は日本酒なんです。こんなに売れるんだと思うくらい売れています。おっしゃるとおり、日本酒は一時期下火になったのですが、酒蔵のつくり手さんも世代交代され、若い感性でつくられている日本酒が多くなってきたのか人気が再燃しました。そこから老舗の日本酒にも興味をもってもらう流れがありますね。また、若いつくり手さんがSNSで情報発信されて、ユーザーとダイレクトにつながっています。やはり若者間は情報が早いですね。

Q.若い方から好まれる日本酒はどんな味ですか?

【塩田】 フルーティーなものですね。僕たちの世代からすると、少し甘口。飲みやすさがポイントだと思います。技術の進歩、新しい取り組みからか「これは果物じゃないか?!」と思うくらい、ジューシーな日本酒がすごく増えました。ただ、何かの人工甘味料を足しているとかではなく、お米が本来持っている力、酵母から引き出されている味なんですよね。いま、日本酒はどんどん美味しく進化しています。若いつくり手さんならではのチャレンジから生まれているように感じます。そこに新たな日本酒ファンがどんどん付いていると思いますね。

Q.京都流の、お酒の嗜みとは?

【塩田】 テーマが大きいですね。責任重大です(笑)。京都は、京料理に代表されるように「だし文化」の土地柄なので、お酒もお料理に合わせて嗜みます。こじんまりとしたお気に入りの店で、おばんざいと好きなお酒を味わう。そんな雰囲気がありますね。また、盆地なので風が抜けず夏は蒸し暑く、冬は底冷えする。春夏秋冬の季節がしっかりとわかれています。夏は軽快なお酒を冷酒でいただき、冬は重みのあるお酒を温めていただく。夏にはハモ、秋には松茸の土瓶蒸しをはじめとした京野菜も季節感があります。お料理に合わせてお酒を愉しんでいますね。

【百井】 だし文化がキーワードですよね。だしはお酒にリンクしていますか?

【塩田】 無意識のうちにリンクしていると思います。「このお料理を食べるなら、このお酒」のような、自然な流れですね。だしというのは旨味なので、お酒と合わせて旨味のハーモニーを楽しむイメージです。

Q.伝統と革新のマリアージュが京都流?

【百井】 日本酒がここまで合うとは思っていませんでした。新しい切り口、愉しみ方を教えていただきました。もっとワインやウィスキーの奥深い世界をすすめられるのかと思っていたんですが、まさか日本酒が主題になるとは驚きです。

【塩田】 日本酒と骨のあるチーズは、とても良いマリアージュです。自信を持って言えます。ワインはもちろん合うのですが、「スモークチーズには絶対赤ワイン!」のように、イメージが固定されても面白くないですよね。京都は“伝統ありき”と見られがちですが、革新があってこその伝統だと思うんですよね。それを含めて京都流じゃないかと。お酒にしてもお料理にしても、もっと共鳴する瞬間を見つけたいです。さらなる愉しみ方を広げていければいいですよね。

【百井】 塩田さんが、とても骨のある男でした。骨のあるお話をありがとうございました。

【 酒都の首都 対談 】 名酒館 タキモト Meishukan Takimoto 〒600-8195 京都府京都市下京区升屋町60 Tel.075-341-9111 OPEN 9:00-19:00(日祝のみ10:00-19:00)

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